こんにちは。ヒサノアスカ(@AsukaHisano)です。
日本人に限ったことではないのですが、チェコに住んでいると言うと「チェコって何語を話すの?」と聞かれることは少なくありません。
歴史上ドイツ語の使用を強制されていた時期(オーストリア=ハンガリー支配時代)があったため、一度は絶滅しかけたりもしましたが、チェコではチェコ語が使われています。
このチェコ語、ギネスが認めた世界で一番発音の難しい子音(ř)が含まれていたり、スラブ言語群の中でも文法が難しい・ややこしいとチェコ語学習者からは実に悪評が高いです。
1年間チェコ語を語学学校で勉強し、その後も4年ほど週に1回勉強していた人の観点で言うと、チェコ語の難しさは文法というよりは、単語が様々な要因で変幻自在に変化する部分にあるのでは?と思っています。
……で、ですね。この単語の変化、ちょっと見方を変えると基本的な考え方が日本語の文法にちょっと共通していたりするのです。
賛否両論ながらも、チェコ語=宇宙人語レベルな初心者の人たちにはちょっととっつきやすくなる考え方のようなので、ヒサノがチェコ語が日本語と似ていると思っている部分をこっそり紹介します。
名詞の変化≒日本語の助詞の変化
チェコ語の名詞には4種類の性別(男性生きてる・男性生きてない・女性・中性)があり、それぞれ使用目的によって7つの格に変化します。
名詞が変化するってどゆこと?となりがちですが、日本語だと名詞そのものはは変化しないものの、その後にくっつく助詞が目的によって変化しますよね。
チェコ語の名詞は、日本語で言うところの名詞+助詞だと考えるとちょっととっつきやすくなります。
1格 主格(~は、~が)
2格 所有格(~の)
3格 第二目的格(~に、~へ)
4格 第一目的格(~を)
5格 呼称(~!※呼びかけ)
6格 前置詞の目的語(~について)※常に前置詞が付くため、単独で使うことはない
7格 付随・手段(~と、~で)
3格と4格がちょっとわかりづらいですが、英語でいうところのSVOO型を当てはめると、少しわかりやすくなります。
図解(?)すると以下のとおり。
1格 4格 3格 動詞
誰かが 何かを 誰かに・何かに ~する
格変化で実際に変わるのは名詞の最後の数文字というあたりもチェコ語の名詞=日本語での名詞+助詞という考え方に程よくフィットします。
まあ、助詞にあたる部分の変化っぷりがバラエティ豊かだったり、語尾が同じでも古い言葉か新しい言葉かで変化の仕方が変わったり、「なんとなくこっちのがしっくりくるから」なんてわけのわかんない理由で「こっちが正しい」とか言われますが、まあ日本語もそんなもんですよね!
語順がかなり柔軟に変化する
英語をはじめとする西ヨーロッパ言語は基本的な語順が決まっていて、大きく変えることはできないですよね。
それがチェコ語は結構自由に入れ替え放題だったりするんです。
もちろんそれなりのルールはあるっぽいのですが、結構感覚で判断してるっぽいです。
語順に関する主なルールは以下の2つ。
- 一番重要な内容は最後に持ってくる
- 2番目クラブはポジション厳守
2番目クラブっていうのは、必ず文の頭から2番目に来なければならない言葉グループ(例・se/si/代名詞の3格、過去形を表すbýtなど)を指す呼び名です。
まあチェコ語学習者を混乱に突き落とす諸悪の根源はさておきまして、チェコ語では一番重要な内容を最後に置く、という語順ルールが日本語と重なります。
英語だと一番重要な内容は真っ先に述べるため、究極最初の3語さえ聞き取れればその文の5割以上理解できたも同然だったりしますが、日本語やチェコ語はむしろ最後にオチ、もとい一番重要な情報が含まれます。
これがどうチェコ語学習初心者に効くのかというと、とりあえず思いついた言葉を並べれば、語順がめちゃくちゃでも言いたいことを拾ってもらえるってことです。
まあ、格変化で失敗するとワケのわからないことになってしまいますが、簡単な文をぶつ切りで並べれば混乱は少ないはず。
ちなみにこの語順の柔軟さは、西ヨーロッパ言語話者にとってチェコ語の取得・理解を困難にする大きな要因ですが、実はチェコ人たちにとっても英語のマスターを妨げる要因だったりします。
よく見かけるチェコ人の英語の間違いがSVO型(誰か(S)が何かを(O)~する(V))で主語と目的語が入れ替わる。
実際に私が最初に遭遇したのが、就労ビザ更新についてHRといろいろやり取りしていた時。
ビザ申請手数料のための収入印紙を自分で買うのか、それとも会社で買ってくれるのかという質問への回答が次のものでした。
Kolky will buy Marie.
※Kolky:収入印紙(Kolek)の複数形
なんと、収入印紙がマリエさんを買うですと……!?
チェコ語の考え方では、私の質問に対する答え(=収入印紙を買うのは誰か)が一番重要なので、文にするとKolky koupi Marie.となります。
つまり収入印紙を買いに行くのはマリエさんという「収入印紙を買いに行く人」を強調するための語順なわけですが、この語順をそのまま英語に適用しちゃうせいでこんな風に面白いことになるわけです。
実はこの手の間違いはチェコ人には本当に多くて、チェコ人が英語を使うとモノが誰かを買うだけでなく、モノが誰かを持って行ったり持ってきたり、モノやイベントが誰かを準備したりするので、時々とっても楽しいです。
主語がなくても主語が何かちゃんと通じる
日本語では主語をしょっちゅう省略しますが、行間を読む言語であるため普通に通じますよね。
チェコ語でも主語がしょっちゅう省略されますが、別の理由で問題なく通じます。
なぜ主語がなくてもチェコ語は問題ないのかというと、動詞が人称に合わせて変化するからです。
英語のbe動詞っぽいですが、それがすべての動詞&もっと徹底しているって感じです。
原型:dělat(~する 英語のdo)
一人称単数(私):dělám
二人称単数(君):děláš
三人称単数(彼・彼女・それ):dělá
一人称複数(私たち):děláme
二人称複数(あなた、あなたたち):děláte
三人称複数(彼ら・それら):dělají
こんな風に動詞の形で主語の人称がわかるため、いちいち主語を使わなくても通じるわけです。
ちなみに主語は言っても言わなくてもあんまり問題ないようですが、主語を強調したいときはアクセント置きまくって主張します。
ちなみに語尾変化ですが、一人称単数、三人称単数・複数は変化の種類によって語尾が変わるものの、二人称単数(-š)一人称複数(-me)二人称複数(-te)の語尾は変わらないので、パターンさえ見つければそんなに難しくはない。はず。
敬語の概念がある
主に目の前にいる人を対象とした2人称(あなた)の場合ですが、チェコ語では目上の人や初めて会った人には2人称単数のtyではなく2人称複数のVyを使い、動詞もそれに合わせて変化させます。
カジュアル:Jak se máš?
フォーマル:Jak se máte?
また文章として書く場合はvyではなくVyとVを大文字にすることで敬語表現を使っていることを明示します。
チェコ人の間ではtyを使う(tykat)かVyを使う(vykat)かで親しさの度合いがわかりやすくみえます。
なので最初の数分は敬語(Vy)で話しつつ、「この人とは友達になれそうだ」と思ったら「タメ口(tykání)でいいよ」と言ったり、あとは気が付いたらお互い普通にtykat使ってたりって感じです。
印象に残っているのが、チェコ人の友人が「これまで何度か別のコンサートで会ったことのある人たちが今回はタメ口(tykání)で話してくれたんだ!」と大喜びしていたこと。
日本でもそうですが、やっぱり敬語を使われていると距離を感じるけれど、普通に話してくれるようになったとたん友達や仲間として受け入れられたって感じるのと同じ感覚ですね。
ただこの「タメ口(tykání)でいいよ」宣言、ちょっとした注意事項があります。
立場や年齢の違いがある場合は当然上の人が宣言したらOKで目下・年下からの宣言は無礼に当たります。
また男女の場合は基本的に女性から宣言するのはOKですが、男性から「タメ口で話していいよ」とか言っちゃうと「アンタ何様のつもり?」とキレられる可能性が……
というわけで日本人男性諸君、もし美人なチェコ人の女の子と出会ってもっと親しくなりたいと思ったときは、「タメ口で話してもいい?」と尋ねるようにしましょうね。
おわりに
英語がある程度わかる人は、他の西ヨーロッパ言語は英語で理解しようと考えがちです。
実際私もデンマーク語を習っていた時は英語的な考え方がとても役立ったのですが、チェコ語に関してはむしろ英語よりも日本語的な考え方をしたほうがしっくりくるケースが多かったです。
……まあ、そんなことを言っていられるのは所詮初心者レベル(A1、A2)までで、各品詞の複数形の格変化とか数詞の変形が出てきたあたりで「なんじゃこの言語はー!」と全力でテキストを床にたたきつけました。(経験者談)
とはいえ、日常生活のために最低限のチェコ語を身に付けたい場合はA2レベルのチェコ語で十分なので、そこまで怖がらずに挑戦しちゃいましょう!